□TRIFLE□編集者は恋をする□
電話口でぽかんとしている大下さんに説明するのも面倒で、「それじゃあまだ仕事中なので」と強引に話をまとめて受話器を置いた。
仕事の話を聞きたいから一緒に食事をというならいいけど、酔っぱらった勢いで、しかもさりげなく下心を見せられて誘われても、誘いに乗る気になんてなれない。
親しくもない男の人と食事するくらいなら、コンビニのおにぎりをかじりながら、編集部で仕事している方がずっと楽しいし。
電話を終えて大きなため息をついた私に向かって片桐は「あーぁ」と小さく笑った。
「何よ?」
「いや。こうやって鉄の女は婚期を逃していくんだなと思って」
私の会話だけで、どんな電話の内容だったかわかってしまったんだろう。
片桐は私を小馬鹿にするように皮肉を言う。
「悪い?」
胸を張って聞き返した私に、片桐は呆れたようにため息をついた。
そして座ったまま椅子のキャスターを滑らせ、私との距離をぐっと縮める。
「お前って、男に興味ないの?」
すぐ横に来た片桐はデスクの上に肘をつき、私の顔を下から見上げるようにして小さく笑った。