□TRIFLE□編集者は恋をする□
「なんで私があんたと出かけないといけないのよ!」
文句を言う美咲さんにかまわず、私はどんどん階段を上る。
清潔で明るい白い壁、白い床、大きな窓、そして微かにぷんと鼻に突く独特の薬品の匂い。
「一体なんでこんなところに……!」
「しっ。病院なんですから、もうちょっと声を落として」
口元に人差し指を当てた私を、美咲さんは忌々しげな表情で睨んだ。
約束の土曜日、美咲さんは文句を言いつつもきちんと待ち合わせの場所に来てくれた。
私に対してはいつも口も態度も悪いけど、本当はとても律義な人なんだろうなと思う。
本人にそんな事言ったら、全力で嫌な顔されそうだから言わないけど。
「なんで名前も知らない人のお見舞いにつき合わされなきゃならないのよ」
「いいじゃないですか。行きつけの居酒屋のおばちゃんなんです。厄介なお願い事されて困ってたから、美咲さんが一緒にいてくれると助かります」
階段を上り終えて振り返ると、美咲さんが階段の踊り場で立ち止まってこちらを睨んでいた。