□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

「何黙り込んでんのよ」

「いえ、なんでもないです。えっと、病室どこだったかなぁ」

慌てて顔を上げて、おばちゃんのいる病室を探す。

「おばちゃーん、元気にしてた?」

そう言っておばちゃんのベッドを覗くと、「あら、平井ちゃんいらっしゃい」と嬉しそうな笑顔が返ってきた。

「今日はお友達も一緒なの?」

私の後ろから病室に入って来た美咲さんを見て、おばちゃんが首を傾げる。

「あ、えっと。美咲さん。片桐の彼女なんだけど」

「へぇ……、片桐くんの。どうも、わざわざ来てくれてありがとう」

おばちゃんは一瞬眉を上げ、すぐにおもしろがるような表情でニッと笑った。

「美咲さん、元美容師だから、いてくれたら心強いと思って付いてきてもらったの」

「あら、それはよかった」

「じゃあさっそく切っちゃう?病室で切ってもいいのかな」

「そうだね。ちょっと看護師さんにここで切っていいか確認しようか」

「私、ナースステーションに行って聞いてくるよ」

私とおばちゃんの会話を聞いていた美咲さんが、はぁ?と驚いたように目を開く。

「ちょっと、さっき言ってた厄介なお願い事って……」

「おばちゃんに、髪の毛がのびてきて邪魔だから切ってくれって頼まれちゃって」
< 281 / 396 >

この作品をシェア

pagetop