□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

「それで私を連れて来たの!?」

「切ってとは言わないので、見てて失敗しそうになったらアドバイスしてくださいよ」

「素人が適当に切ったら、失敗するに決まってるじゃない」

「私も何回もおばちゃんを説得したんですけど、いいから切れってきかないんですもん」

素人の、しかも相当不器用な部類の私がおばちゃんの伸びかけのショートヘアを切ったら、酷い事になるのは簡単に想像できる。
だから何度もイヤだと断った言ったのに。

「いいのいいの。髪の毛が邪魔でイライラするんだもん。平井ちゃんにはいつもあんなに美味しいご飯を食べさせてあげてたんだから、たまに私の頼みくらい聞きなさい」

「でもちゃんとお金払ってたよ?」

「お金で食材は買えるけど、料理に込めた真心までは買えません」

文句を言う私をぴしゃりと叱りつけて、おばちゃんが胸を張る。

確かにそうだ。
おばちゃんのお店の料理は、どれも手間と愛情がこもっているからあんなに美味しいんだ。
それが分かってるから、おばちゃんの無茶なお願いを断りきれなかった。

「反論がないなら、ナースステーションに行って聞いてきなさい」

「はぁい」

言い負かされて背中を丸めた私を見て、おばちゃんは嬉しそうに笑った。

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