□TRIFLE□編集者は恋をする□
「一応ケープ買ってきたからつけるね」
ドラッグストアで買ってきた、散髪用のケープを車いすに座ったおばちゃんの首につける。
看護師さんが使っていいよと言ってくれた談話室は、大きな窓から病院の隣にある雑木林が見えた。
風が吹くたびに木漏れ日が揺れる、とても明るい空間だった。
「思いきり切っちゃっていいからね」
「失敗しても文句言わないでよ」
そう言いながらおばちゃんの髪に櫛を通す。
人の髪を全体が短くなるくらい切るなんてはじめてで、さすがにドキドキする。
ドラッグストアで買ってきたハサミのセットを手に、顔周りの髪を一筋取ると、後ろからすごい声が飛んできた。
「ちょっと!いきなりそんなにたくさん毛束取ってどうするのよ!」
パイプ椅子に座って様子を見ていた美咲さんが、目を見開いて怒鳴る。
「あ、もうちょっと少なくですか?」
「え、なにそのハサミの向き!垂直に切ったらまっすぐ揃って変になるでしょう!」
「え?こう切っちゃいけないんですか?」
「縦方向にハサミを入れるのなんて常識よ!」
「こうですね」
「あー!!それ絶対短すぎる!もっと全体のバランスを考えてハサミを入れなさいよ!」
「え?こう?」