□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

「一応ケープ買ってきたからつけるね」

ドラッグストアで買ってきた、散髪用のケープを車いすに座ったおばちゃんの首につける。
看護師さんが使っていいよと言ってくれた談話室は、大きな窓から病院の隣にある雑木林が見えた。
風が吹くたびに木漏れ日が揺れる、とても明るい空間だった。

「思いきり切っちゃっていいからね」

「失敗しても文句言わないでよ」

そう言いながらおばちゃんの髪に櫛を通す。

人の髪を全体が短くなるくらい切るなんてはじめてで、さすがにドキドキする。
ドラッグストアで買ってきたハサミのセットを手に、顔周りの髪を一筋取ると、後ろからすごい声が飛んできた。

「ちょっと!いきなりそんなにたくさん毛束取ってどうするのよ!」

パイプ椅子に座って様子を見ていた美咲さんが、目を見開いて怒鳴る。

「あ、もうちょっと少なくですか?」

「え、なにそのハサミの向き!垂直に切ったらまっすぐ揃って変になるでしょう!」

「え?こう切っちゃいけないんですか?」

「縦方向にハサミを入れるのなんて常識よ!」

「こうですね」

「あー!!それ絶対短すぎる!もっと全体のバランスを考えてハサミを入れなさいよ!」

「え?こう?」

< 283 / 396 >

この作品をシェア

pagetop