□TRIFLE□編集者は恋をする□

 

「辞めた理由はともかく、片桐のせいでなんて嘘、言わない方がいいですよ。そんな事を言われたら、片桐だってきっと傷つきます」

「あんたは本当に単純でまっすぐでいいわね」

「どういう意味ですか」

どうせまた私をバカにしてるんだろう。
私は掃除機のコードをしまい、体を起こした。
すると「あっ」と美咲さんが声をあげた。

「なんですか?」

美咲さんは私の背中にそっと手を伸ばす。

「背中についてた」

美咲さんの手のひらに赤くて丸い小さなてんとう虫がいた。

「わ、てんとう虫だ。久しぶりに見た」

綺麗なつるりとした赤い背中に、黒い星が七つ。
ナナホシテントウだ。

「てんとう虫なんてどこから迷い込んだんだろう。いつの間にか春が来たんですね」

まんまるの体を支えるにはアンバランスな細い足を動かして、てんとう虫は美咲さんの手のひらから指先を目指して歩き出す。

「窓から外に出してあげましょうか」

ここは行き場の無い室内だっていうのに、必死に上へ上へと目指すてんとう虫が可愛くてそう提案した。

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