□TRIFLE□編集者は恋をする□
談話室にある窓は転落防止の為にハンドルを回すと隙間が空くようになっていた。
よいしょと力を入れて10cmほど隙間をあけると、木の葉が揺れる音が身近に聞こえ、一緒に涼しい風が吹き込んできた。
「こんな高い場所から逃がして大丈夫ですかね」
1cmにも満たない小さな小さなてんとう虫。
二階の病室の窓から外に放り出されて大丈夫かなと不安になると、美咲さんがバカにしたように鼻から息を吐いた。
「飛べるんだから大丈夫でしょ」
「あ、そっか。てんとう虫って飛べるんでしたっけ」
美咲さんは窓の隙間からてんとう虫の乗った左手を出す。
てんとう虫は太陽の光を感じ取ったのか、さっきよりもずっと力強い足取りで美咲さんの指先を上りはじめた。
中指の先端まで行くともぞもぞと身じろぎし少しだけ身を屈める。
「わ」
それは一瞬だった。
ぱかりと赤く丸い殻が二つに開くと、そこから向こう側が透けそうなくらい薄くて華奢な羽が出て来た。
ころりとして丸みを帯びた体には頼りないその羽を羽ばたかせると、てんとう虫はあっという間に風に乗って空を飛んだ。