□TRIFLE□編集者は恋をする□

 

「それから違う店で働こうとしたこともあったんだけど、客相手に髪を切るのが怖くなって、結局そのまま美容師を辞めたんだよ」

待ち伏せされてハサミを突き付けられた恐怖はそんなに簡単には忘れられないだろう。
お客さんと接するたびに、また勘違いさせてしまうんじゃないかと不安になっていたら、美容師なんて続けられない。

だから、美咲さんは美容師をやめちゃったんだ……。

「俺がちゃんと美咲と向き合っていれば、美咲は美容師をやめなくてすんだかもしれないと思うと責任を感じた。もう恋人ではいられないけど、美咲が落ち着くまでそばにいてやろうと思った。夜中に不安だって電話が来れば、会いに行ったし、家の周りに不審な男がいないか見て回ったりもしたし」

「……え、恋人ではないって」

「もうきちんと別れ話をしてるから、付き合ってはない。美咲もそう思ってるはずだけど」

「でも美咲さん、私に片桐とは別れないって宣言してきたよ!?」

「お前を困らせてやりたかったんだろ、きっと」

あぁ、あの捻くれた美咲さんの事だ。
私を混乱させて振り回すために、そんな嘘くらい平気でつきそうだ。

< 332 / 396 >

この作品をシェア

pagetop