□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

「医療機関への訪問美容っていうから、将来有望な若い医者と知り合えるだろうと思ってたのに、ぜんぜんそんな機会無いのよ。ほとんどリハビリ施設とか老人ホームとか。しかも髪を切った後、おじいちゃんおばあちゃんの相手をしてあげるのが忙しくて、医者と話す時間なんてないの。次々にお菓子とかお漬物とか貢物みたいに出してくるんだもん」

「いいですね。きっと髪の毛を綺麗にしてもらったお礼に、美咲さんをおもてなしするのが楽しいんですね」

うれしそうなおじいちゃんおばあちゃんに囲まれて、戸惑いながらも一緒にお茶を飲む美咲さんの姿が頭に浮かんで、思わず笑みがこぼれた。

「まぁね。今までずっと彼氏がいなかった事なかったんだけど、たまにはこういうのもいいかなって思った」

「こういうの?」

「仕事バカのあんたに影響されたわけじゃないけど。30歳目前にして仕事が楽しいって言えるのも、幸せかなのかなもしれない」

そう言った美咲さんは、ちょっと照れた表情をしていた。

「だから、匠とあんたには感謝してる」

「……え?」

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