□TRIFLE□編集者は恋をする□
「匠に別れ話された時は腹が立って、ハサミを持てなくなったのは匠のせいだとか言いがかりをつけちゃったんだけど、好きな女がいるのに一年も私のワガママに付き合ってくれた事、感謝してる」
「好きな女?」
「悔しいから一生言わないつもりだったけど、あんたにも少しは感謝してるから教えてあげる」
たくさんの人が行き来する街中の大型書店で、美咲さんはその風景を眺めながら口を開いた。
「一年前に別れ話された時、匠、好きな女がいるって言ってたんだよ。どんな女?って聞いたら、仕事バカの不器用な女だって」
「え……?」
「それって私と正反対じゃんって思ったら腹が立って。その時同僚と関係がうまく行かなくて、仕事がつまんなかったから余計に。私と別れてその仕事バカの女とくっつくのなんて許せなかった。だから、お客さんに待ち伏せされて襲われそうになった時、大袈裟にショックを受けたフリをしたの。匠が責任を感じて、次の女と付き合えなくなればいいと思って」
私に背を向けたまま、静かな口調でそう言った美咲さん。
彼女の華奢な肩越しの横顔からは、表情が読み取れなかった。