□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

平井はしばらくそのまま天井を眺めた後、よいしょと小さな声と共に立ち上がった。
裸足でフローリングの上をぺたぺたと歩き、南側の壁一面をしめる掃出し窓に手を掛けた。

ガラリと音をたててガラス戸が開く。
一気に風が吹きこんできて、平井の細い体が大きく膨らんだレースのカーテンの中に埋まるのが見えた。
風通しのいいワンルームに、緑の香りの風が吹き抜ける。

俺はそれをベッドの中から、ぼんやりと眺めていた。

大きめのTシャツ一枚身に着けただけの平井が、風に髪を揺らしながらこちらを振り向いて、驚いた顔をした。

「ごめん片桐、起こしちゃった?」

「いや、起きてた」

俺が体を起こしながらそう答えると、平井は少し困った顔をしてベッドの方へと歩いてくる。

「お前、こんな恰好で窓開けるなよ」

「どうして?」

「外から見えるだろ」

Tシャツ一枚だけで外から見える窓辺に立つなんて、無防備にもほどがある。
女の一人暮らしなんだから、自覚と危機感を持てと呆れてしまう。

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