□TRIFLE□編集者は恋をする□
「あ、あの……。この前の校了中にこの広告のネイルサロンから編集部に電話あって。
新規で組んでた広告のキャンペーンしないことになったから、前号の広告に差し換えてくださいって言われて……」
おどおどしながら、デガワがそう言う。
「誰にも確認せずに、デガワがひとりでやったの?」
今にも消えてしまいそうなくらい小さく肩をすくめたデガワに、なるべく冷静に聞こえる様にゆっくりと話しかけた。
「だって、ただのデータ流用だし。みんな忙しそうだったから、怖くて話しかけられなくて……」
デガワはうるんだ瞳で私の事を見ながらそう言う。
「前号のって、具体的に何月号とは確認しなかったの?」
「だって、今発売してる10月号が今月号ですよね?校了中のが来月号で。だから、前月号って言ったら、誰だって9月号だと思うじゃないですか」
デガワの話を聞いた編集長は、思いきり不機嫌そうに舌打ちしながら立ち上がった。
携帯電話を出して話しながら、資料室(という名の仮眠室)に置いてあるグレーのジャケットを引っ張り出して、よれよれの白いシャツの上に羽織る。