□TRIFLE□編集者は恋をする□
 
「椎名。今から出られるか?
こっちもすぐ向うから、店の近くの駐車場で。ああ、よろしく頼む」

これからお店に謝りに行くんだろう。
すっかり怯えて小さくなったデガワの事なんて一切見ずに、電話の向こうの椎名さんと早口で打ち合わせをしながら大股で歩く。
さっきまでだらしなくパチンコ雑誌を読んでいただらしない姿とは別人のような厳しい表情で、社用車のカローラの鍵を乱暴に掴んだ。

「俺も行きます」

9月号と10月号をカバンに詰めながら、片桐も編集長についていく。
このネイルサロンの企画広告の写真撮影をしていたのは片桐だから、他人事じゃないんだろう。
足早に歩いていく二人の背中を見たデガワが、「あ、あのっ、編集長……!」と今にも泣きそうな声で叫んだ。

ゆっくりと振り返る、目つきの悪い編集長。
不健康そうな痩せた顔に、四角い銀のフレームをかけた彼は、雑誌編集長というよりはインテリヤクザだと言われたほうがよっぽどしっくりする。
そんなガラの悪い編集長に睨まれ、デガワがさらに委縮して小さくなるのがわかった。

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