□TRIFLE□編集者は恋をする□
すぐ後ろでもゆっくりと肩を下ろした気配がして、振り向くと葉月さんが私と同じような表情で首を傾げて見せる。
まったくあの編集長は。
こういうフォローを一切しないんだから。
そう心の中で悪態をつきながら、ふーっと息を吐き出した。
エレベーターホールからとぼとぼと編集部に戻ってきたデガワが、鼻をすすりながら給湯室に入っていく。
私も立ち上がり給湯室へと行くと、デガワが真っ赤な目でこちらを見た。
「あたし、クビですかね……」
デガワがうつむきながらポツリと言う。
「さぁ。デガワ次第じゃない?」
そんな事ないよ。
たった一回の失敗なんて気にしないで頑張ってよ。
なんて言葉を期待していたんだろう。
デガワは私の答えに傷ついたように、大きく鼻をすすった。
「3万5千部」
私がぽつりとそう言うと、
「はい?」
デガワが不思議そうに眉をひそめて、こちらを振り返った。
「うちの雑誌の発行部数。3万5千部。多いと思う?少ないと思う?」
デガワの視線が一瞬泳ぐ。
突然言われたその数字に、実感がわかないんだろう。