□TRIFLE□編集者は恋をする□
 
新人営業マン、大下さんの無邪気な笑顔に思わず脱力しそうになる。
印刷会社内で、私は一体どんなふうに言われているんだろう。

「平井さん、もしよかったら今度一緒に食事でも行きませんか?雑誌の印刷の事はまだ分からなのんで、編集のことを教えてください」

大下さんはそう言いながら、さっき交換した自分の名刺を私の手の中から一度取り、裏側にプライベートと思わしき携帯電話の番号をサラサラと書きとめる。

「あ、はい。校了前とかじゃなければ……」

手書きの電話番号入りの名刺を再度受け取りながらそう言うと、

「お宅の新人度胸あるな。うちの鉄の女を口説こうとするなんて」

前方からからかうような声が飛んできた。

この声は、同僚の片桐だ。

カメラの機材入りの大きな黒いバックを肩にかけ編集部に入って来た片桐は、私の手の中の名刺を上から覗き込むように見て笑った。

「こいつを仕事を口実に呼び出しても、本当に朝まで仕事の話しかしないぞ」
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