□TRIFLE□編集者は恋をする□
デガワは小さく首を傾げて水道の蛇口を閉めてから、「よくわからないです」と小さな声で答えた。
「そうだよね。数字で言われたって正直わからないよね」
そのデガワの素直な返答に、私は笑って頷く。
私だって、この仕事をはじめたばかりの頃は万単位で発行部数を言われたところでまったく見当がつかなかった。
「デガワ、今度印刷所に行って見せてもらうといいよ。すごい音をたてながら、自分が苦労して作ったページが何枚も大きな機械から出てくる所、見たらいいよ」
「そんなの、いいです」
投げやりなデガワの返事に「どうして?」と首を傾げる。
「だって、どうせあたしクビですよね。だから今更印刷所なんて見に行ったってしょうがないですもん」
「デガワは辞めたいの?」
「そういうわけじゃないですけど」
「編集長にクビだって言われたの?」
「言われてないですけど。……でも、編集長あたしの事一言も責めなかったんです」
そう言いながら、デガワはうつむいて唇を噛む。
「きっと、あたしの事なんて怒る価値もないって、こんなやつ怒鳴ったってどうしようもないって思われたんです」
そう言うデガワの声は小さく震えて、今にも泣きだしそうだった。