□TRIFLE□編集者は恋をする□

 

原稿に黄色のダーマトでチェックを入れながら、最近ダーマトと赤ペンの消費量が半端ないなぁ、としみじみ思う。

ダーマトというのは、校正時によく使われる色鉛筆だ。
ワックスが多く含まれているので、つるつるした校正紙にもよく書ける。
便利な反面、芯の柔らかいダーマトはあっという間に短くなる。
私はペリペリと音を立てて芯の周りの巻紙を剥がし、短くなったそれを握り直して、小さくため息をついた。

短くなるダーマトと一緒に、私の中のなけなしの女子力も削られていってる気がするのは、ただの錯覚だろうか。

こうやって私が仕事ばかりしているうちに、周囲の人たちは恋愛したり結婚したりしてるんだ。
そう思うとまた勝手にため息がもれた。

「そんな大きなため息ついてたら、幸せ逃げますよ」

ふわりと甘い匂いがしたと思ったら、後ろをデガワが通り過ぎた。
今日は淡いピンク色の膝丈のワンピースに、ベージュのノーカラージャケット。
この前編集長に言われたのが響いているのか、最近のデガワの恰好はようやく落ち着いてきたというか、雑誌編集者らしくなってきた。

「ため息くらいで幸せが逃げるなら、もう私の手持ちの幸せは底をついてると思うんだけど」

「ですよねー」

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