第三王子の婚約者~内戦状態の母国から生き延びるため隣国へ送られた王女はそこで出会った王子と恋をする~
第2話
「君に会えない間、僕がどれだけ寂しい思いをしているか、どうしたら分かってもらえる? 僕はいつだって君に会いたいと思っているのに。アデルはそうじゃないの?」
ノアはまた手にキスをする。
「まぁ、こんなところで……。恥ずかしいわ、ノア」
あの方のお顔も見たことがある。
あの方も、あの方もだ。
みんな著名な方ばかり。
どうにかしてノアから離れ、ご挨拶したいのに、ノアは絶対にそれを許そうとはしない。
「ね、ノア」
「ん? どうした?」
「ちょっとだけ離れちゃダメ? 他の人とも、お話しがしたいの」
「今日は……、ずっと側にいて。君だけしか見えない。離したくないんだ」
会場に華やかなため息が漏れる。
振り返ると、ステファーヌさまがいらしたようだった。
「おや。ノアはさっそくアデルを独り占めにしているのかい? いけない子だね」
肩までの真っ直ぐな髪が、サラリと流れる。
白金の髪と眩しいほど鮮やかな青い目は、第一王子の名にふさわしい優雅さだ。
「今日の一番のダンスを、アデルにお願いしようと思っていたのに。これではお誘いしにくいじゃないか」
ノアの目の前で、私にその手を差し出す。
「私の誕生日なんだ。アデルを借りても、今日くらいは許してくれるだろう?」
ノアはムッとした表情を隠せてない。
ステファーヌさまと、その周囲を取り囲む人々がクスクスと微笑む。
「あぁ、やっぱりノアは難しいなぁ」
「ステファーヌさま。本日はお招きありがとうございます。大変な光栄ですわ」
そんな申し出をお断りする方が、失礼でしょ。
手を重ねたとたん、音楽が始まる。
「ふふ。こんなことをして、後で怒られるのは私ですね」
ステファーヌさまはとても洗練されたステップで、優しくもしっかりとしたリードをされる方だ。
軽やかな音楽に、軽快なステップは続く。
「ここへ来るのは、怖くなかったの?」
「そ、そんなことは……。だって、お誕生日会ですもの」
「ふふ。そうだね。君はそういう人だった」
ステファーヌさまが頬を寄せてくる。
そこに軽くキスをされ、顔は真っ赤になる。
その耳元で王子はささやいた。
「見てごらん。ノアはもうヤキモチをやいてる」
そのノアの周りを、女性たちが取り囲んでいた。
その姿に、なぜか胸がチクリと痛む。
「アデルはこの会場を見て、どう思った?」
「と、とても素敵で……。私なんかが、ステファーヌさまの最初の相手でよかったのでしょうか」
「むしろ君じゃないと、後が面倒くさいからね。助かるよ」
音楽が終わると、フィルマンさまが待ち構えていた。
「今日は一番を兄さんに譲ったけど、二番は俺がいただくよ」
そのまま交代。
次の曲では、フィルマンさまの手の内でくるくるとあしらわれる。
「君は大人気だね。ここにいる全ての女性たちの、憧れの的だ。思う存分、好きなように振る舞うといい」
そんなことを言われても、素直に「はい。そうします」なんて、言えるわけがない。
ノアの周りには次々と女性たちが集まり、それぞれに挨拶を交わしている。
あれ? リディさまとコリンヌさまも?
「アデル、どこを見ている? この俺と踊っているのに」
グイと引き寄せられ、額にキスされる。
「お、おやめください。恥ずかしいです」
「はは。君を独り占め出来るのがノアだけだなんて、そんな不公平なことはあるかい?」
「ですが、私は……」
「そんなことはね、俺と兄さんが許さないよ」
フィルマンさまの手が腰に回る。
ノアと一瞬目が合ったのに、ぐるりと方向転換された。
「ほら。もう君を待つ行列が出来ている」
次の方と交代する。
初めてお会いする方だ。
自由奔放なお兄さまたちとは違って、さすがに丁寧にダンスをしてくれるし、礼もつくしてくれる。
「初めまして。お会い出来て光栄です」
「どうかお見知りおきを」
次々と絶えることのないダンスのお誘い。
王宮の舞踏会だと、みんな私に遠慮して、誰も声をかけてこないのに……。
初めてお会いする方々と交わす、他愛のないお話し。
楽しい。
賑やかな会場に、つい視線が泳いでしまう。
あの詩人の方は、ダンスはなさらないのかしら。
他の方とおしゃべりしているみたい。
どうにかしてこちらから、話しかけることは出来ないかな……。
数多くの方々と踊り終えた後でも、おしゃべりは続く。
「まぁ、それではあの絵は、あなたがお描きになったのですか」
「えぇ、そうですよ」
「素晴らしいわ。王宮の中でも、よく話題に上がりますの。ぜひ一度アカデミーへいらしてください。すぐに招待状を送らせますわ」
「ありがとうございます」
いつの間にか、私の周りにも人垣が出来ていた。
「今度の舞台公演には、ぜひノアさまとお越しください」
「えぇ、喜んで。楽しみにしております」
「アデルさま。ぜひ私とも1曲いかがです?」
ダンスの相手は次々と現れる。
その誰も彼もが、断りたくても断れない有力貴族の男性だ。
「えぇ、よろこんで」
流れる音楽に合わせて、その腕に身を任せる。
この方は、ステファーヌさまと大変仲の良い腹心とも言えるお方だ。
確かお名前は、ジョセフさま?
ノアはまた手にキスをする。
「まぁ、こんなところで……。恥ずかしいわ、ノア」
あの方のお顔も見たことがある。
あの方も、あの方もだ。
みんな著名な方ばかり。
どうにかしてノアから離れ、ご挨拶したいのに、ノアは絶対にそれを許そうとはしない。
「ね、ノア」
「ん? どうした?」
「ちょっとだけ離れちゃダメ? 他の人とも、お話しがしたいの」
「今日は……、ずっと側にいて。君だけしか見えない。離したくないんだ」
会場に華やかなため息が漏れる。
振り返ると、ステファーヌさまがいらしたようだった。
「おや。ノアはさっそくアデルを独り占めにしているのかい? いけない子だね」
肩までの真っ直ぐな髪が、サラリと流れる。
白金の髪と眩しいほど鮮やかな青い目は、第一王子の名にふさわしい優雅さだ。
「今日の一番のダンスを、アデルにお願いしようと思っていたのに。これではお誘いしにくいじゃないか」
ノアの目の前で、私にその手を差し出す。
「私の誕生日なんだ。アデルを借りても、今日くらいは許してくれるだろう?」
ノアはムッとした表情を隠せてない。
ステファーヌさまと、その周囲を取り囲む人々がクスクスと微笑む。
「あぁ、やっぱりノアは難しいなぁ」
「ステファーヌさま。本日はお招きありがとうございます。大変な光栄ですわ」
そんな申し出をお断りする方が、失礼でしょ。
手を重ねたとたん、音楽が始まる。
「ふふ。こんなことをして、後で怒られるのは私ですね」
ステファーヌさまはとても洗練されたステップで、優しくもしっかりとしたリードをされる方だ。
軽やかな音楽に、軽快なステップは続く。
「ここへ来るのは、怖くなかったの?」
「そ、そんなことは……。だって、お誕生日会ですもの」
「ふふ。そうだね。君はそういう人だった」
ステファーヌさまが頬を寄せてくる。
そこに軽くキスをされ、顔は真っ赤になる。
その耳元で王子はささやいた。
「見てごらん。ノアはもうヤキモチをやいてる」
そのノアの周りを、女性たちが取り囲んでいた。
その姿に、なぜか胸がチクリと痛む。
「アデルはこの会場を見て、どう思った?」
「と、とても素敵で……。私なんかが、ステファーヌさまの最初の相手でよかったのでしょうか」
「むしろ君じゃないと、後が面倒くさいからね。助かるよ」
音楽が終わると、フィルマンさまが待ち構えていた。
「今日は一番を兄さんに譲ったけど、二番は俺がいただくよ」
そのまま交代。
次の曲では、フィルマンさまの手の内でくるくるとあしらわれる。
「君は大人気だね。ここにいる全ての女性たちの、憧れの的だ。思う存分、好きなように振る舞うといい」
そんなことを言われても、素直に「はい。そうします」なんて、言えるわけがない。
ノアの周りには次々と女性たちが集まり、それぞれに挨拶を交わしている。
あれ? リディさまとコリンヌさまも?
「アデル、どこを見ている? この俺と踊っているのに」
グイと引き寄せられ、額にキスされる。
「お、おやめください。恥ずかしいです」
「はは。君を独り占め出来るのがノアだけだなんて、そんな不公平なことはあるかい?」
「ですが、私は……」
「そんなことはね、俺と兄さんが許さないよ」
フィルマンさまの手が腰に回る。
ノアと一瞬目が合ったのに、ぐるりと方向転換された。
「ほら。もう君を待つ行列が出来ている」
次の方と交代する。
初めてお会いする方だ。
自由奔放なお兄さまたちとは違って、さすがに丁寧にダンスをしてくれるし、礼もつくしてくれる。
「初めまして。お会い出来て光栄です」
「どうかお見知りおきを」
次々と絶えることのないダンスのお誘い。
王宮の舞踏会だと、みんな私に遠慮して、誰も声をかけてこないのに……。
初めてお会いする方々と交わす、他愛のないお話し。
楽しい。
賑やかな会場に、つい視線が泳いでしまう。
あの詩人の方は、ダンスはなさらないのかしら。
他の方とおしゃべりしているみたい。
どうにかしてこちらから、話しかけることは出来ないかな……。
数多くの方々と踊り終えた後でも、おしゃべりは続く。
「まぁ、それではあの絵は、あなたがお描きになったのですか」
「えぇ、そうですよ」
「素晴らしいわ。王宮の中でも、よく話題に上がりますの。ぜひ一度アカデミーへいらしてください。すぐに招待状を送らせますわ」
「ありがとうございます」
いつの間にか、私の周りにも人垣が出来ていた。
「今度の舞台公演には、ぜひノアさまとお越しください」
「えぇ、喜んで。楽しみにしております」
「アデルさま。ぜひ私とも1曲いかがです?」
ダンスの相手は次々と現れる。
その誰も彼もが、断りたくても断れない有力貴族の男性だ。
「えぇ、よろこんで」
流れる音楽に合わせて、その腕に身を任せる。
この方は、ステファーヌさまと大変仲の良い腹心とも言えるお方だ。
確かお名前は、ジョセフさま?