第三王子の婚約者~内戦状態の母国から生き延びるため隣国へ送られた王女はそこで出会った王子と恋をする~
第8章
第1話
私たちはエミリーの計画に従い、馬車へ乗りこむ。
ノアたちには迎えに出ないよう、部屋で待っているように、先に伝えてあった。
シモン・デュポール伯爵家別邸に到着すると、私たちはこっそり移動を開始する。
準備を済ませると、普段は私たちなら入らないような場所へ案内された。
見つからないよう、そこでも物陰に隠れる。
準備の整ったところで、始まりの合図を出した。
しばらくして、予定通りノックに続いて、エドガーの声が聞こえてくる。
「アデルさまとエミリーさまをお連れしました」
ここからは全く見えないけれど、サラサラと衣ずれの音が聞こえてくる。
と、ノアのため息が聞こえた。
「で、僕は君に、誰を迎えに行けと頼んだんだっけ?」
「アデルさまとエミリーさまです」
「部屋で待っていろって、別人を連れて来るということだったのか?」
「私も脅されております」
しばしの沈黙。
何かごそごそ聞こえるけど、外の様子は分からない。
「はぁ~……。なるほど。確かに伝言は受け取った。ここには君とアデル、エミリーのサインもある。本物に違いない」
「エミリーの奴、また何か企んだのか?」
ポールの声だ。
「ホントあいつしょうがねぇな」
「仕方ないよ」
シモンの声も聞こえる。
「で、本物の二人はどこへ?」
「この屋敷へ来てはおります」
「それを探せと?」
「はい……」
「かくれんぼか」
「勝負は夜明けまでだそうです」
「んだ? ソレ!」
ポールは相変わらず口が汚い。
ノアが言った。
「シモン。彼女たちは、ここの使用人なのか?」
「えぇーっと。さすがに全員の顔は覚えていないので……、分かりません」
「この者たちは、エミリーさまのところで雇われたものです」
「では、本物のアデルとエミリーは、ここで侍女になっていると」
「んだソレ! クソめんどくせぇ!」
「まぁいいじゃないか、ポール。それで、シモン。女性の使用人は、何人いるんだ?」
「えぇ~っと。いつもなら5、6人程度ですが、今回はノアやアデルが来るっていうから、臨時で増員してて……。12人? くらいか? あぁ、そうだってさ」
「まぁいいだろう」
ノアが言った。
「では、本物が見つかるまで、このお嬢さま方には、本人の身代わりとして接していただこう。お茶の用意でもして、おもてなしを。いいかなシモン」
「了解」
「ふぅ。仕方ない。探しに行くか」
「俺もやんの?」
「当たり前だ。アデルは僕が探すから、エミリーはポールな」
「また俺かよ。なんで?」
「いいから。真面目に探せよ。たぶん一緒にいる」
扉の閉まる音が聞こえる。
下ろされていたカーテンが開けられた。
「もう大丈夫ですよ」
エドガーだ。
私とエミリーは、使用人たちの待機部屋から出てくる。
「わお。随分とかわいいメイドさんだね。すぐにバレなきゃいいけど」
シモンは私たちを見て、ウインクを投げた。
襟元のキッチリ詰まった、上品な濃紺に白いエプロンの、この家のメイド服を来ている。
「ふふ。絶対に明日の朝まで逃げ切ってみせるわ。ねぇアデル」
「まぁ、こうなったらやるしかないわね」
「で、俺とエドガーはどうすればいいの?」
「黙って見てて!」
「はは。はいはい。分かったよ」
「では皆さん、よろしくね」
居並ぶ家令や執事たちに挨拶をして、ゲームの始まりだ。
私たちは侍女長に連れられて、こっそり部屋を出る。
「うふふ。なんだがドキドキする!」
「ね、とりあえずどこに隠れる?」
「この屋敷は広いもの。そう簡単に見つかりっこないわ」
「なによ、アデルもやる気出てきたのね」
「当然でしょ」
廊下から、同じ服を着た侍女が顔を出した。
彼女はジェスチャーで別の部屋の方向を指指す。
そっちにノアたちがいるということだ。
エミリーと顔を見合わす。
「大変、逃げなくちゃ!」
「こっそりね、アデル!」
「静かに、急ぎましょう」
ノアたちには迎えに出ないよう、部屋で待っているように、先に伝えてあった。
シモン・デュポール伯爵家別邸に到着すると、私たちはこっそり移動を開始する。
準備を済ませると、普段は私たちなら入らないような場所へ案内された。
見つからないよう、そこでも物陰に隠れる。
準備の整ったところで、始まりの合図を出した。
しばらくして、予定通りノックに続いて、エドガーの声が聞こえてくる。
「アデルさまとエミリーさまをお連れしました」
ここからは全く見えないけれど、サラサラと衣ずれの音が聞こえてくる。
と、ノアのため息が聞こえた。
「で、僕は君に、誰を迎えに行けと頼んだんだっけ?」
「アデルさまとエミリーさまです」
「部屋で待っていろって、別人を連れて来るということだったのか?」
「私も脅されております」
しばしの沈黙。
何かごそごそ聞こえるけど、外の様子は分からない。
「はぁ~……。なるほど。確かに伝言は受け取った。ここには君とアデル、エミリーのサインもある。本物に違いない」
「エミリーの奴、また何か企んだのか?」
ポールの声だ。
「ホントあいつしょうがねぇな」
「仕方ないよ」
シモンの声も聞こえる。
「で、本物の二人はどこへ?」
「この屋敷へ来てはおります」
「それを探せと?」
「はい……」
「かくれんぼか」
「勝負は夜明けまでだそうです」
「んだ? ソレ!」
ポールは相変わらず口が汚い。
ノアが言った。
「シモン。彼女たちは、ここの使用人なのか?」
「えぇーっと。さすがに全員の顔は覚えていないので……、分かりません」
「この者たちは、エミリーさまのところで雇われたものです」
「では、本物のアデルとエミリーは、ここで侍女になっていると」
「んだソレ! クソめんどくせぇ!」
「まぁいいじゃないか、ポール。それで、シモン。女性の使用人は、何人いるんだ?」
「えぇ~っと。いつもなら5、6人程度ですが、今回はノアやアデルが来るっていうから、臨時で増員してて……。12人? くらいか? あぁ、そうだってさ」
「まぁいいだろう」
ノアが言った。
「では、本物が見つかるまで、このお嬢さま方には、本人の身代わりとして接していただこう。お茶の用意でもして、おもてなしを。いいかなシモン」
「了解」
「ふぅ。仕方ない。探しに行くか」
「俺もやんの?」
「当たり前だ。アデルは僕が探すから、エミリーはポールな」
「また俺かよ。なんで?」
「いいから。真面目に探せよ。たぶん一緒にいる」
扉の閉まる音が聞こえる。
下ろされていたカーテンが開けられた。
「もう大丈夫ですよ」
エドガーだ。
私とエミリーは、使用人たちの待機部屋から出てくる。
「わお。随分とかわいいメイドさんだね。すぐにバレなきゃいいけど」
シモンは私たちを見て、ウインクを投げた。
襟元のキッチリ詰まった、上品な濃紺に白いエプロンの、この家のメイド服を来ている。
「ふふ。絶対に明日の朝まで逃げ切ってみせるわ。ねぇアデル」
「まぁ、こうなったらやるしかないわね」
「で、俺とエドガーはどうすればいいの?」
「黙って見てて!」
「はは。はいはい。分かったよ」
「では皆さん、よろしくね」
居並ぶ家令や執事たちに挨拶をして、ゲームの始まりだ。
私たちは侍女長に連れられて、こっそり部屋を出る。
「うふふ。なんだがドキドキする!」
「ね、とりあえずどこに隠れる?」
「この屋敷は広いもの。そう簡単に見つかりっこないわ」
「なによ、アデルもやる気出てきたのね」
「当然でしょ」
廊下から、同じ服を着た侍女が顔を出した。
彼女はジェスチャーで別の部屋の方向を指指す。
そっちにノアたちがいるということだ。
エミリーと顔を見合わす。
「大変、逃げなくちゃ!」
「こっそりね、アデル!」
「静かに、急ぎましょう」