第三王子の婚約者~内戦状態の母国から生き延びるため隣国へ送られた王女はそこで出会った王子と恋をする~
第3話
「アデルさま、エミリーさま。来客がございました。一時かくれんぼは停止いたしますか?」
「いいえ。続けましょう。そのお客さまに、お茶を運ぶよう言いつかってきたの」
侍女長の話しによると、客はデュレー公爵家からの者だという。
コリンヌのところだ。
「シモンとコリンヌは、仲がよかったの?」
「我がデュポール伯爵家当主が、デュレー公爵家当主と懇意にしております関係で、幼いころからご交流はございます」
「だけど、だからって、コリンヌのところの執事が、どうしてシモンのところの侍女に口を出すのよ。行き過ぎだわ」
エミリーの言葉に、そこにいた侍女たち全員が一斉にうなだれた。
「それが……。よくあることでございますので……」
「いつもあんな態度なの?」
「今回は、この別邸にノアさまもいらっしゃっております。それがまたお気に召されないようで……」
「ノアがシモンと仲良しなのは、知ってるじゃない」
「ですが……。あの、デュレー公爵さまとしては、シモンさまとノアさまの仲がよいのが、ことさら気になるご様子で……。デュレー公爵さまには、ご子息がいらっしゃらず……」
何それ。
意味が分からない。
エミリーは、フンと上を向いた。
「分かったわ。公爵家の執事がなによ。お茶ぐらい私たちで運ぶから!」
「そ、それはどうかご容赦くださいませ! アデルさまやエミリーさまにまで失礼があれば、ノアさまに対する失礼にもあたります。それでシモンさまとの関係に支障をきたすようなことがあれば、シモンさままで……」
やって来た使者は、執事とはいえ公爵家の使者だ。
その扱いは、伯爵家であるシモンたちにとって、軽々しく出来るものではない。
その家の使者として来たのならば、公爵さま自身と扱いは同等になるのだ。
ましてエミリーとポールは、貴族の子女とは言え、家柄としては子爵になる。
「分かったわ。ここは侍女長たちに従いましょう。用が終われば、すぐにお帰りになるでしょうから、それまでかくれんぼは一時休戦ね。どこかで私たちも、休みましょ」
私とエミリーには、すぐに別室が用意され、そこに案内された。
屋敷内が急に慌ただしくなる。
使者の対応にシモンが呼ばれたようだ。
ノアとポールはどうしているのだろう。
「あーあ。結局この部屋に閉じ込められちゃったわね」
そう言って、エミリーは窓の外を眺めた。
太陽はすっかり沈みかけている。
「まだ帰らないのかしら。いつまでいるつもり?」
不意にノックがして、扉が開いた。
入って来たのはポールだ。
「なんだよ。まだ着替えてなかったのか」
「だって、かくれんぼはまだ続行中だもの」
「そんなもん、中止だよ、中止」
そう言うと、ポールはソファにごろりと横になった。
大あくびをする。
「どういうこと? もしかして、もう飽きちゃったの?」
「は? 俺はさっきまで寝てたし、ノアも寝てるよ」
「……。どういうこと?」
エミリーの声が低い。
怒ってる。
ポールはそれに構うことなく、寝転がったまま頬杖をついた。
「お迎えが来てるんだ。ノアに。今すぐデュレーさまのところ来いって言われて、怒って寝ちゃった」
「だからって、寝ることある?」
「お前さ、大体昨日のこと覚えてんのかよ。おかげでこっちは寝不足なんだ」
「き、昨日のことって、なによ!」
エミリーを無視して、ポールの視線は私に向かう。
「アデルは? 記憶あんの?」
「わ、私もあんまり、覚えてない……」
「はは。これだよ」
ポールは呆れたように笑った。
ソファから起き上がる。
その顔が急に険しくなる。
「もう、二人とも、絶対、酒は、飲むな」
「……」
返す言葉が見つからない。
エミリーは真っ赤な顔をして、座り込んでしまった。
「でさ、着替えておいでよ。公爵さまの執事に何か言われたんだって? その格好じゃ勘違いされても仕方ないだろ。俺が部屋まで送ってってやるから、まともな格好しておいで」
こうなっては仕方がない。
この遊びもお開きだ。
私とエミリーはポールに促され、部屋から廊下へ出る。
「いいえ。続けましょう。そのお客さまに、お茶を運ぶよう言いつかってきたの」
侍女長の話しによると、客はデュレー公爵家からの者だという。
コリンヌのところだ。
「シモンとコリンヌは、仲がよかったの?」
「我がデュポール伯爵家当主が、デュレー公爵家当主と懇意にしております関係で、幼いころからご交流はございます」
「だけど、だからって、コリンヌのところの執事が、どうしてシモンのところの侍女に口を出すのよ。行き過ぎだわ」
エミリーの言葉に、そこにいた侍女たち全員が一斉にうなだれた。
「それが……。よくあることでございますので……」
「いつもあんな態度なの?」
「今回は、この別邸にノアさまもいらっしゃっております。それがまたお気に召されないようで……」
「ノアがシモンと仲良しなのは、知ってるじゃない」
「ですが……。あの、デュレー公爵さまとしては、シモンさまとノアさまの仲がよいのが、ことさら気になるご様子で……。デュレー公爵さまには、ご子息がいらっしゃらず……」
何それ。
意味が分からない。
エミリーは、フンと上を向いた。
「分かったわ。公爵家の執事がなによ。お茶ぐらい私たちで運ぶから!」
「そ、それはどうかご容赦くださいませ! アデルさまやエミリーさまにまで失礼があれば、ノアさまに対する失礼にもあたります。それでシモンさまとの関係に支障をきたすようなことがあれば、シモンさままで……」
やって来た使者は、執事とはいえ公爵家の使者だ。
その扱いは、伯爵家であるシモンたちにとって、軽々しく出来るものではない。
その家の使者として来たのならば、公爵さま自身と扱いは同等になるのだ。
ましてエミリーとポールは、貴族の子女とは言え、家柄としては子爵になる。
「分かったわ。ここは侍女長たちに従いましょう。用が終われば、すぐにお帰りになるでしょうから、それまでかくれんぼは一時休戦ね。どこかで私たちも、休みましょ」
私とエミリーには、すぐに別室が用意され、そこに案内された。
屋敷内が急に慌ただしくなる。
使者の対応にシモンが呼ばれたようだ。
ノアとポールはどうしているのだろう。
「あーあ。結局この部屋に閉じ込められちゃったわね」
そう言って、エミリーは窓の外を眺めた。
太陽はすっかり沈みかけている。
「まだ帰らないのかしら。いつまでいるつもり?」
不意にノックがして、扉が開いた。
入って来たのはポールだ。
「なんだよ。まだ着替えてなかったのか」
「だって、かくれんぼはまだ続行中だもの」
「そんなもん、中止だよ、中止」
そう言うと、ポールはソファにごろりと横になった。
大あくびをする。
「どういうこと? もしかして、もう飽きちゃったの?」
「は? 俺はさっきまで寝てたし、ノアも寝てるよ」
「……。どういうこと?」
エミリーの声が低い。
怒ってる。
ポールはそれに構うことなく、寝転がったまま頬杖をついた。
「お迎えが来てるんだ。ノアに。今すぐデュレーさまのところ来いって言われて、怒って寝ちゃった」
「だからって、寝ることある?」
「お前さ、大体昨日のこと覚えてんのかよ。おかげでこっちは寝不足なんだ」
「き、昨日のことって、なによ!」
エミリーを無視して、ポールの視線は私に向かう。
「アデルは? 記憶あんの?」
「わ、私もあんまり、覚えてない……」
「はは。これだよ」
ポールは呆れたように笑った。
ソファから起き上がる。
その顔が急に険しくなる。
「もう、二人とも、絶対、酒は、飲むな」
「……」
返す言葉が見つからない。
エミリーは真っ赤な顔をして、座り込んでしまった。
「でさ、着替えておいでよ。公爵さまの執事に何か言われたんだって? その格好じゃ勘違いされても仕方ないだろ。俺が部屋まで送ってってやるから、まともな格好しておいで」
こうなっては仕方がない。
この遊びもお開きだ。
私とエミリーはポールに促され、部屋から廊下へ出る。