第三王子の婚約者~内戦状態の母国から生き延びるため隣国へ送られた王女はそこで出会った王子と恋をする~
第9章
第1話
朝になり、目を覚ます。
すぐ横でゴソリとなにかが動いた。
夏用の薄いブランケットの下で、私のものではない腕が動く。
「誰!」
「誰って……」
ノアだ!
「だれ……じゃ、……ないよ。ひど……あれる……」
ごろんと寝返りをうつ。
ノアの格好は、昨夜のままだ。
「ちょ、ねぇ! 本当にあのままここで寝たの?」
ノアは目をつぶったまま、ピクリとも動かない。
「ねぇ、どういうこと?」
白いマットレスの上にうつ伏せになったまま、顔だけをこっちに向けて寝ている。
「お、起きて。起きてってば!」
肩を揺すっても、ビクともしない。
こんなところ、セリーヌに見つかったら、それこそ何て言われるか……。
ベッドから下りようとした私のお腹に、ノアの腕が回った。
「きゃあ!」
「僕には一人にするなって言ったくせに、君は僕を置いて行くの?」
「い、いいから放して!」
「いやだ」
ベッドに引きずりこまれる。
ノアは後ろからぎゅっと私を抱きしめた。
「アデルからキスしてくれるまで、放さない」
重ねられた腕が、意外と重たい。
捕まった腕の中で、私はもぞもぞと体を回転させると、ノアの方へ向き直った。
ノアはそんなことにも知らんぷりで、そのまま眠っている。
キ、キスって、どこにすればいいの?
ノアのミルクティー色の髪と、その下の眉。
決して触れられなかったものが、いま目の前にある。
閉じられた目とまつげと、鼻筋と、唇……。
私はその唇に、チュッとキスをした。
「はい、これでお終い!」
ノアは目を開けると、自分の口元を押さえ真っ赤になっている。
「ちょ、待って。ほんとに? え? ねぇ、アデル、もう一回……」
ベッドから抜け出した私を、ノアは追いかけて来る。
私たちの夏休みが、ようやく始まった。
次の日には近くの川へ釣りに出かけ、雨が降れば部屋に籠もって本を読む。
みんなで作った様々な形のパンを食べ、夜はチェスやカードゲームをして過ごした。
「デュレー公爵さまから、招待状が届いております」
そんなある日のことだ。
シモンの別邸に一通の手紙が届いた。
「招待状?」
そこにいた私たちは、全員が顔を見合わせる。
「どういうことだよ。よくそんなもん送ってこれたな」
ポールが毒づく横で、シモンが封を切る。
彼はそれを一読した。
「今回のお詫びに、みんなを舞踏会へ招待するってさ」
「デュレー公爵家の?」
それは多分、一般的には名誉なことに違いない。
だけど……。
「行く……の?」
「行かないわけにはいかないだろうな。じゃないと、王族であるノアと公爵家の不仲が成立してしまう。ノアがそれほど、怒ってるってことになるよ」
「怒ってるよ、怒ってるけど……」
「だけど、こじらせるわけにもいかないだろ」
シモンの言葉に、ノアはため息をついた。
「さて。どうしたもんだか。僕がちょっと行ってご機嫌をとれば、正直それで済む話しだ。公務みたいなもんだよ。一日二日滞在して、ご機嫌とってくりゃいいんだ」
「ノアはそれでいいのかよ」
そう言ったポールの横で、ノアはじっと何かを考えている。
「なんか、悔しくね?」
彼の招きに素直に従い、私たち全員で押しかけたところで、いいように扱われ結局は笑いものにされるとしか思えない。
それでは本末転倒だ。
「そうだ。こうしよう」
ノアはニッと、悪戯な笑みを浮かべた。何か思いついたらしい。
すぐ横でゴソリとなにかが動いた。
夏用の薄いブランケットの下で、私のものではない腕が動く。
「誰!」
「誰って……」
ノアだ!
「だれ……じゃ、……ないよ。ひど……あれる……」
ごろんと寝返りをうつ。
ノアの格好は、昨夜のままだ。
「ちょ、ねぇ! 本当にあのままここで寝たの?」
ノアは目をつぶったまま、ピクリとも動かない。
「ねぇ、どういうこと?」
白いマットレスの上にうつ伏せになったまま、顔だけをこっちに向けて寝ている。
「お、起きて。起きてってば!」
肩を揺すっても、ビクともしない。
こんなところ、セリーヌに見つかったら、それこそ何て言われるか……。
ベッドから下りようとした私のお腹に、ノアの腕が回った。
「きゃあ!」
「僕には一人にするなって言ったくせに、君は僕を置いて行くの?」
「い、いいから放して!」
「いやだ」
ベッドに引きずりこまれる。
ノアは後ろからぎゅっと私を抱きしめた。
「アデルからキスしてくれるまで、放さない」
重ねられた腕が、意外と重たい。
捕まった腕の中で、私はもぞもぞと体を回転させると、ノアの方へ向き直った。
ノアはそんなことにも知らんぷりで、そのまま眠っている。
キ、キスって、どこにすればいいの?
ノアのミルクティー色の髪と、その下の眉。
決して触れられなかったものが、いま目の前にある。
閉じられた目とまつげと、鼻筋と、唇……。
私はその唇に、チュッとキスをした。
「はい、これでお終い!」
ノアは目を開けると、自分の口元を押さえ真っ赤になっている。
「ちょ、待って。ほんとに? え? ねぇ、アデル、もう一回……」
ベッドから抜け出した私を、ノアは追いかけて来る。
私たちの夏休みが、ようやく始まった。
次の日には近くの川へ釣りに出かけ、雨が降れば部屋に籠もって本を読む。
みんなで作った様々な形のパンを食べ、夜はチェスやカードゲームをして過ごした。
「デュレー公爵さまから、招待状が届いております」
そんなある日のことだ。
シモンの別邸に一通の手紙が届いた。
「招待状?」
そこにいた私たちは、全員が顔を見合わせる。
「どういうことだよ。よくそんなもん送ってこれたな」
ポールが毒づく横で、シモンが封を切る。
彼はそれを一読した。
「今回のお詫びに、みんなを舞踏会へ招待するってさ」
「デュレー公爵家の?」
それは多分、一般的には名誉なことに違いない。
だけど……。
「行く……の?」
「行かないわけにはいかないだろうな。じゃないと、王族であるノアと公爵家の不仲が成立してしまう。ノアがそれほど、怒ってるってことになるよ」
「怒ってるよ、怒ってるけど……」
「だけど、こじらせるわけにもいかないだろ」
シモンの言葉に、ノアはため息をついた。
「さて。どうしたもんだか。僕がちょっと行ってご機嫌をとれば、正直それで済む話しだ。公務みたいなもんだよ。一日二日滞在して、ご機嫌とってくりゃいいんだ」
「ノアはそれでいいのかよ」
そう言ったポールの横で、ノアはじっと何かを考えている。
「なんか、悔しくね?」
彼の招きに素直に従い、私たち全員で押しかけたところで、いいように扱われ結局は笑いものにされるとしか思えない。
それでは本末転倒だ。
「そうだ。こうしよう」
ノアはニッと、悪戯な笑みを浮かべた。何か思いついたらしい。