第三王子の婚約者~内戦状態の母国から生き延びるため隣国へ送られた王女はそこで出会った王子と恋をする~
第2話
「テントに着きました。ここで一旦ご休憩です」
馬車を降りたのは、本当に枯れ野の広がる原野だった。
そこにいくつものテントが立てられ、お茶や簡単な食事が振る舞われている。
私は用意されたテントの一つに入った。
テーブルにはアフタヌーンティーセットが用意され、爽やかな紅茶の香りが漂う。
「君は、本当に行ってしまうんだね」
「ステファーヌさま。このようなところまでお見送り下さり、恐縮です」
「俺たちは、本当に君を家族のように思っていたんだからな。それは忘れないでくれ」
フィルマンさまの姿もある。
「私も、ここで過ごした6年の月日を決して忘れません。よい留学経験となりました」
「はは。そう来たか」
「切ないねぇ」
ステファーヌさまは、穏やかな笑みを浮かべた。
「君は何も心配することはないよ。私たちはいつでも君を歓迎する。向こうへ戻っても、ぜひ今後とも友好な関係をお願いしたい」
「もちろんですわ。こちらからも、よろしくお願いします」
「ノアのことは気にすんな」
そう言ってフィルマンさまはニッと笑った。
「あいつのことは、こっちで何とかしておく」
「……。最後まで、お世話になります」
式典の準備が整い、隊列がパレードから旅団の編成へと変わった。
本当にここから、長い別れの旅が始まるんだ。
この荒野を越え、山を越えた向こうに、私の帰るべき場所がある。
美しい花や布で飾られたテントに、やはりノアの姿はない。
それも当然か。
あんな酷い別れ方をしたのだもの。
昨日の今日で、私の顔なんて見たくもないのだろう。
ラッパの音が鳴り響く。
私はステファーヌさまとフィルマンさまの前に進み出ると、丁寧に膝を折り頭を下げた。
臣下の礼だ。
昨晩のノアにも、同じことをして別れた。
「このご恩は決して忘れません。寛大で慈愛に満ちた壮麗なるマルゴー王国と、我が誇り高きフローディ家の絆が、永遠であらんことを」
「長旅の無事を祈ります。共に繁栄のあらんことを」
ステファーヌさまが壇上から下りてきた。
私を抱き寄せ、互いの頬を交互に合わせる。
「ステファーヌさま、本当にありがとうございました」
流れる涙がもう抑えきれなくて、ステファーヌさまが笑っている。
フィルマンさまとも、同じようにハグをした。
「お元気で」
馬車へ乗り込む。
見送りの音楽が鳴った。
いよいよ出発だ。
「皆さんもお元気で!」
窓から身を乗り出し、流れる涙もそのままに手を振った。
土手上に並んだ見送りの隊列は、徐々に小さくなり、やがて見えなくなる。
私は涙でぐしゃぐしゃになったまま、ようやく振り終えた手を下ろし、馬車の座席へ座り込んだ。
フロアーノは見るに見かねたように、ハンカチを差し出す。
馬車を降りたのは、本当に枯れ野の広がる原野だった。
そこにいくつものテントが立てられ、お茶や簡単な食事が振る舞われている。
私は用意されたテントの一つに入った。
テーブルにはアフタヌーンティーセットが用意され、爽やかな紅茶の香りが漂う。
「君は、本当に行ってしまうんだね」
「ステファーヌさま。このようなところまでお見送り下さり、恐縮です」
「俺たちは、本当に君を家族のように思っていたんだからな。それは忘れないでくれ」
フィルマンさまの姿もある。
「私も、ここで過ごした6年の月日を決して忘れません。よい留学経験となりました」
「はは。そう来たか」
「切ないねぇ」
ステファーヌさまは、穏やかな笑みを浮かべた。
「君は何も心配することはないよ。私たちはいつでも君を歓迎する。向こうへ戻っても、ぜひ今後とも友好な関係をお願いしたい」
「もちろんですわ。こちらからも、よろしくお願いします」
「ノアのことは気にすんな」
そう言ってフィルマンさまはニッと笑った。
「あいつのことは、こっちで何とかしておく」
「……。最後まで、お世話になります」
式典の準備が整い、隊列がパレードから旅団の編成へと変わった。
本当にここから、長い別れの旅が始まるんだ。
この荒野を越え、山を越えた向こうに、私の帰るべき場所がある。
美しい花や布で飾られたテントに、やはりノアの姿はない。
それも当然か。
あんな酷い別れ方をしたのだもの。
昨日の今日で、私の顔なんて見たくもないのだろう。
ラッパの音が鳴り響く。
私はステファーヌさまとフィルマンさまの前に進み出ると、丁寧に膝を折り頭を下げた。
臣下の礼だ。
昨晩のノアにも、同じことをして別れた。
「このご恩は決して忘れません。寛大で慈愛に満ちた壮麗なるマルゴー王国と、我が誇り高きフローディ家の絆が、永遠であらんことを」
「長旅の無事を祈ります。共に繁栄のあらんことを」
ステファーヌさまが壇上から下りてきた。
私を抱き寄せ、互いの頬を交互に合わせる。
「ステファーヌさま、本当にありがとうございました」
流れる涙がもう抑えきれなくて、ステファーヌさまが笑っている。
フィルマンさまとも、同じようにハグをした。
「お元気で」
馬車へ乗り込む。
見送りの音楽が鳴った。
いよいよ出発だ。
「皆さんもお元気で!」
窓から身を乗り出し、流れる涙もそのままに手を振った。
土手上に並んだ見送りの隊列は、徐々に小さくなり、やがて見えなくなる。
私は涙でぐしゃぐしゃになったまま、ようやく振り終えた手を下ろし、馬車の座席へ座り込んだ。
フロアーノは見るに見かねたように、ハンカチを差し出す。