この恋に名前をつけるなら
数日後。
日が暮れた晩、
下のリビングで私の両親が話しをしていた。
私の父親である木栖正利《きすみ まさとし》は、
不動産の社長をしている。
今日は仕事が休みで、
妻の千里とのんびり会話をしていた。
「あの子、最近彼氏できたみたいよ」
不貞腐れるように、
千里はボソッと口を開いた。
「彼氏?結空にいたのか?」
少し驚きながらも、正利の目尻は垂れる。
「ええ。ずっと隠してたみたい。私達にバレないように……」
嫌味っぽく聞こえる口調に優しさなどない。
千里は笑うことなく、目を細めた。
「……そうか。もう高校生なんだからほっといてやりなさい」
千里の態度とは裏腹に、
正利は優しい口調で言った。
正利は私を溺愛していて、
とても優しい父親だった。
「なによ!高校生だから危ないのよ!もし、子どもでも作られたら……はあ」
千里は次第に口調が強くなり、
どんよりした空気を作っていた。
千里は私に冷たく、
幸せそうにする結空を見るのが、
嫌だったのだろう。
私に対してやけに当たりが強くなっていく。
「まあ、そんな怒るなよ。君の考えも分からないことないが心配いらないよ」
正利は千里を落ち着かす。
「はい?心配だらけよ。勉強もせずに彼氏ばっかりで」
「まぁまあ、もう高校生なんだし、しっかりしてるよ」
正利は真面目な表情で言った。
私は三人姉妹の長女で、
千里達と五人で暮らしている。
下二人は五歳と三歳で私と歳がだいぶ離れていた。
そんな下の娘達は今、お絵描きに夢中だ。
「あなたはいつも結空の味方ね」
千里は顔色を変え、不機嫌になる。
「そんなことないさ。いつも平等に接してるじゃないか」
「いいの?結空の彼氏がクズな男でも?」
「え!何だって?クズなのか?」
正利は千里の言葉を疑う。
とても心配になったのだろう。
千里は正利から背を向け、
不適な笑みを浮かべた。
「結空の同級生から聞いたわ」
「何を?」
「彼氏が結空以外にも数人の女と付き合ってるってことを」
「それ、本当なのか?」
「間違いないわ。イケメンだったし他に女がいてもおかしくなかったわ」
「それは心配だな」
正利は娘思いであり、不安になっていた。
「だから、私はこんなに心配してるの。分かってくれた?」
「ああ。すまなかったよ」
千里は正利の耳元で何かを囁く。
正利は目を丸くして、千里を見つめた。
千里がこれから何をしようとしているのか?
それを知ってしまった正利は親として、
娘にとって、
正解なのかを考えさせられていた。