この恋に名前をつけるなら
「え?中島さん?」


俺は目を丸くして言った。


彼女は高校時代に、

同じクラスメイトだった中島莉緒。



当時は黒髪だったが、金髪に様変わりしていた。


化粧のせいだろうか。


中島さんは大人びて、綺麗になっていた。



「久しぶり!あれ?広島から帰って来たの?」


中島さんは微笑みながら、俺に手を振り、近づいてきた。


大学二年生の俺は広島の大学に進学し、

広島市に住んでいたため、

中島さんとは卒業以来、会っていない。



「そうだよ。たまたま用事でさ。中島さんこそ何でここに?」



「私?家がこの辺なの」


中島さんは家の場所を指さした。


俺もさされた方向を見上げ、確認する。



「あ!そう言えばこの辺って前に言ってたよね」



「うん。それで今、仕事終わって帰ってきたとこ」


勉強嫌いな中島さんは進学せず、地元の松江で働いていた。



「そっか。仕事お疲れ」



「ありがと。一ノ瀬君はまだ松江にいるの?」



「いや、それが……もうこの後、広島戻るんだよね」



「え!そうなの?じゃあ……また帰って来たら、小田君達と遊ぼうよ、ね?」


中島さんは残念そうに俺を見つめていた。


海斗とよく、この三人で行動していたのが最近のようで懐かしい。



「うん。また海斗に連絡してみるよ」


俺は照れ笑いを浮かべながら、中島さんに手を振った。



「うん。またね」


中島さんも同じく手を振り返し、俺の背中を見届ける。



俺は長い坂道を下り、広島行きのバス停にようやく着いた。



バスが到着し、バスの中から松江の景色を眺める。


雨が降り出し、濡れた松江の街並み。


まるで、変わりに泣いてくれているようだった。



また嫌いな生活が始まる。


結空に逢ったら変わると思ったのに……



俺は憂鬱な気分で、広島に帰って行った。
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