この恋に名前をつけるなら
それは、一人の女性が俺の疲弊しきった心を救ってくれたから。
いつものように一人寂しく、食堂でご飯を食べていた日だ。
身長が高く、モデルのような体型に大人っぽい顔つきをした女性。
彼女の名前は頼田栞《よりた しおり》。
そんな彼女が周りを気にせず、
俺に話しかけてきた。
「ここ座っていい?」
一つ先輩の彼女は笑顔で俺に尋ねる。
手にはお弁当箱を持っていた。
久しぶりに大学で話しかけられ、俺はあたふたする。
「え?はい」
俺は返事だけ残し、箸を動かす。
彼女は空いた席がたくさんあるのに、何故か俺の隣に座りこんだ。
「いつも食堂で買って食べてるの?」
また話しかけてくる。
俺は戸惑いながらも、顔を見上げた。
彼女の満面の笑みが目に映る。
「はい。そうです……けど」
俺は上手く会話が出来ない。
「毎日、食堂のご飯だと飽きない?」
彼女はお弁当箱を開ける。
手作り弁当だった。
色鮮やかで料理上手なのが見てすぐ分かる。
「え?まぁ……」
俺は彼女のお弁当から目を離せないでいた。
「だよね?だから私、お弁当作ってるんだ」
彼女は箸を手に取り、食べ出す。
俺は彼女が噂のことを知らないのだと思い込んだ。
「うん?一ついる?」
俺の顔を覗き込み、
卵焼きを持った箸を俺の口元に近づける。
俺は驚き慌て、顔を背けた。
「だ、大丈夫です」
周りの視線が気になる。
悪い噂で酷い目にあった俺は、彼女も巻き込んでしまうと思ったのだろう。
俺は急いでお膳を持ち、食堂から出て行った。
彼女は小さく息を吐き、寂しそうに俺のことを目で追った。