私の幸せな身籠り結婚
Mission5 招かれざる客人


 ◇◇◇


あの日の夜の出来事から、数日が経った。私はまだ、颯霞さんと顔を合わせられないままでいる。


颯霞さんの方から私の書斎を訪ねてくることもなければ、今まで毎日一緒に食事をしていたのが、料理は全て私の部屋に届けられるようになっていた。


それはきっと颯霞さんのせめてもの気遣いだろう。


今の私にはそれが、精神的にも体力的にもとても助かっている。きっと颯霞さんと顔を合わせてしまったら、私はまた息苦しさに(さいな)まれてしまうだろう。


「子規堂様、朝食のお時間でございます。お料理をお持ち致しました」

「あぁ、入ってください」


目を向けていた書類から視線を外し、コンコンと扉を軽く叩く音が聞こえた方を見た。


扉が開き、廊下から黒いスーツを纏ったまだ若い二十後半の執事さんが現れる。


今日も今日とて、身なりの良い服装に姿勢正しく佇むその姿を見て、ふっと笑みが浮かぶ。

その執事の名を、西条 真琴(さいじょう まこと)と言った。


彼もまた颯霞さんには決して及ばないけれど、女性に好まれる端正で綺麗な顔立ちをしていた。

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