私の幸せな身籠り結婚
誰にだって、他人には言えない秘密が一つや二つは必ずある。
それは当たり前で、当たり前過ぎて今まで忘れてしまっていたことだ。
俺の返答を聞いて満足そうに頷いた七海さんは、きちんと背を正して俺の腕に七海さんの腕を回す。
「行きましょうか。颯霞さん」
ふわっと微笑んだ七海さんの表情が大輪の薔薇よりも美しいと感じたことは、俺だけの秘密だ。
◇◇◇
「いやぁ、七海さん。遠い所からよく来てくれたね」
「ふふ、私も嬉しいわぁ」
金を基調としたヨーロッパ風の雰囲気が漂う洋室の一角で、私は背筋をピンと正して良い婚約者を演じていた。
ふんわりとした柔らかい笑みを湛え、見ている人全員が好気的な視線を寄越してきた私のこの笑顔。
見ているだけで嫌な気持ちが全て浄化されていくような、荒れ狂っていた心の海が穏やかに凪いでいくような、そんな気持ちにさせられる。
もちろん、そんなことを私は知る由もないが。