私の幸せな身籠り結婚


だけど、そんな素晴らしい人間だからと言って、完璧とは限らない。


全てに絶望して、死を選んでしまうかもしれない───。


そう思った幼き頃の俺は、あの最低な男をこの如月家から追い出そうとした。


小さい脳ながらも賢明に策を考え、俺はやっと、あの男を悪人として仕立て上げることが出来たのだ……。


俺は自らの身体を甚振(いたぶ)り、痣だらけにした。皮肉にもあの男の位というものはこの日本国に置いても偉い位置に順ずるものだったのだ。


俺はそれをいいように使ってやった。昔は、人々の間で行われる噂というものの言伝(ことづて)は早く、次から次へと人々の耳に止まりやがてその情報は俺の住む都市全土へと広がり皇帝にも伝わったのだ。


“現如月家当主は、実の息子に手を出すほどに野蛮で極悪卑劣な奴だ”

“当主としての責任も果たさず、妻である氷織様に全てを任せ自分は夜が明けるまで女たちと酔いしれているろくでもない奴だ”


噂には尾ひれというものが付き物で、あの男は間もなく如月家の敵となる。


如月家長男の俺が実の父親を殺したという情報は、公にはされなかったものの、母上とお手伝いさんたちだけは知っている。

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