私の幸せな身籠り結婚


「それじゃあ俺は、ソファで少し横になりますから…、七海さんはベッドで安心して眠ってください。まだ体調は完全に回復していないのですから」


颯霞さんはゆっくりとした動作で私から離れ、少し遠くに置かれている大きくて座り心地の良さそうなソファへと歩いて行こうとした。


七海はそんな後ろ姿が気になり、声を掛けた。


「……颯霞さんは、このベッドで寝ないんですか?」

「……え、?」


私がそう聞くと、キョトンとした表情で振り返った颯霞さん。あれ、私変なこと言っちゃったかな……と、少し不安な気持ちになりながらも、もう一度聞いてみた。


「あの、…だから、颯霞さんはこのベッドで寝ないのかと聞いているのです。そのようなお体でソファでお休みになられても体調は悪化する一方です」


私は、颯霞さんのことが心配なのだ。そして、こんなにも心配してしまうという理由には、私がもう颯霞さんのことを他人として見られなくなっているから……。


別にどうなっても良かった人。最初は簡単に傷付けられると思っていた人。この人を裏切っても、私には関係のないことだと割り切れていた。


だけど私は、今はそんな感情を一切抱くことが出来ていないのだ。


颯霞さんの隣りにいるうちに、こんなにも情が湧いてしまった。これは私の祖国に対する、反逆行為だ。

< 70 / 143 >

この作品をシェア

pagetop