私の幸せな身籠り結婚


私は顔に熱が集まっていくのを感じながら、颯霞さんの瞳を真っ直ぐに見つめた。


颯霞さんは私の言葉に目を大きく見開いて、私の方へと歩み寄った。だらんと力の抜けた私の手を両の手で包み込み、颯霞さんは切なそうな顔をして私を見つめていた。


「……本当は、俺も七海さんと寝床を共にしてみたいのです。だけど、具合の悪い俺が七海さんの隣で休むと、おれが感染(うつ)ってしまうかもしれない。……それが、俺はどうしょうもなく怖いのです」


慈愛に満ち溢れた、優しい声音。本当にこの人は、自分の欲ではなく、第一に私のことを優先してくれる。


どうしてそんなことが出来るのかと、どうしてそんなにも広い心を持つことが出来るのかと、問い質したくもなる。


「そんなこと、気にしなくてもいいのに……」


思わず、心の中の声が口に出て、颯霞さんの耳へと届いてしまう。颯霞さんはそんな私の言葉に頬をほんのりと赤く染めていた。


それが熱のせいなのか、それとも私の言葉に嬉しさを感じてくれているのか、どちらかは分からない。それでも、私はそれで良いと思った。


私たちのこの関係は、不明瞭(ふめいりょう)なままでいい。颯霞さんが顔を染める意味なんて、私の心臓がこんなにもドキドキとしている理由なんて、これから先も一生分からないままでいい。

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