そして消えゆく君の声
 みがきこまれた黒いテーブル。多面体のフレームの中で複雑に反射する照明。

 グラスの中の氷が、赤い光を反射してきらきら光っている。


「……」


 長い足を組んでこちらを見る要さんと向き合う私は、完全に硬直していた。

 勢いだけで来てしまったけれど、考えてみれば何を話すかすら決めていなかった。
 

 どうしよう。

 どんな風に話を切り出せばいいんだろう。
 

 緊張でこめかみが痛い。なのに要さんは、なんの遠慮もなく私の目や口元をじろじろと見ると。開口一番。


「ちょっと驚いた」

「え?」
 
「秀二と仲良くしてる女なんてどうせ誰からも相手にされない日陰者なんだろうと思ってたけど、日原さん普通に友達いそうじゃん。ちょっと地味だし、子供っぽいけどさ」

「………」


 初対面とは思えない、というか友達に言われても軽く落ち込む表現に言葉を失う。 

 たしかに私はメイクとかもしていないし、髪も地元の美容院で切ってもらってるし、小学校の同窓会ではみんなに全然変わらないって言われたけど……。

 返答のしようがなくて、鞄を抱えたまま視線を伏せると、薄い唇が笑う気配がした。


「よく知らない相手と話すのは苦手?」

「す、少し」

「その分だと押しにも弱いんじゃない? 駄目だよ、俺なんかの呼び出しに応じたら」

「………」


 ……こういう時って、どう反応すればいいんだろう。

 ギャップがあるどころの話じゃない、頭が混線してしまいそうな要さんとの会話。雪乃とかなら上手くかわすのかもしれないけど、私じゃ気後れするだけで。
 
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