そして消えゆく君の声
 居心地の悪さに身を縮こまらせていると、さっきの男の人が細長いボトルに入った飲み物を持ってきてくれた。


「どうぞ」

「あ、すみません」


 グラスに注がれた真っ赤なジュース。オレンジかな?と思いながらストローを手に取ると、男の人はじっと私の目を見て。


「大変だね、要にいじめられて」

「えっ、いえ、そんな」

「こいつ性格悪いから大変でしょう?」


 心底同情したような語調に、要さんが肩をすくめる。


「いじめてるなんて人聞きの悪い。こんなに楽しくお茶してるのに」

「俺の目には怯える日原さんとニヤついてるお前が見えるんだけど?」

「男の嫉妬は見苦しいねえ。とりあえず、邪魔なんで厨房へどーぞ」

「はいはい。じゃ、何かあったら呼んでね」


 毒のある口調にも怒った様子はなく、男の人は軽く手を振って戻っていく。

 手の中に残った、赤い赤いジュース。


「俺のおごりだから、飲みなよ」


 と言われてあわてて口をつけると、要さんはテーブルに頬杖をついて。


「ところで」


 そこで言葉を切ると、エプロンを結んだ後姿が消えたのを確認してからもう一度口を開いた。


「日原さんは、うちのことをどこまで知ってんの?」
 
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