そして消えゆく君の声
「………っ!」


 不意打ち。

 口の中のジュースを吹き出しそうになるのをおさえて、私は引きつった表情で要さんを見た。

 大きな手を輪郭にそえて、まるで気楽な世間話でもしているかのように頬杖をついている要さん。

 でも、今の言葉は明らかにあのことを匂わせていた。一瞬で頭のなかによみがえる、黒崎くんの言葉。紫色に腫れた肌。


 答えていいの?

 もし正直に答えて、それが征一さんに知られたら?

 けれど、正直に言わないと事態は進展しないかもしれない。


 いろいろな「もし」や「けど」が頭をめぐって唇をふるわせていると、要さんはすうっときれいな目を細めて楽しそうに言葉を接いだ。


「まあ、いきなりベラベラしゃべるほど馬鹿じゃないか」

「あ、の……」

「でも、話さない…話せないのもひとつの答えだってわかってる?」

「あ……」


 ……そうだ。 

 何も言えない時点で私が「なにか」を知っていることは確実なわけで。


「私、その……」

「いいよ、そうじゃないと呼び出した意味がない」


 金属製の腕時計の留め具をさわっていた手がこめかみに移動して、なでるように眼鏡をはずす。
 
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