そして消えゆく君の声
「日原さんに会いたかった理由っていうのは、まあいろいろあって」


 黒崎くんとも征一さんともあまり似ていない、神経質そうな顔。

 涼しげな瞳のなかに、動揺しきった私の顔が映っていた。


「一つは口止めのお願い。知っての通りうちはちょっと変だからさ、他人に首つっこまれて波風立てられると困るっていうのはあるよね、当然。でもこれは必要なかったな、きみ、口堅そうだし」


 口を挟むことを許さない言葉。


「あと純粋な好奇心も理由の一つ。秀二がコソコソ連絡とってる女がどんななのかってね。俺が知る限り、こういうのは初めてだったから」


 そこで、発言は途切れる。

 かたまっている私の顔をのぞきこむと、要さんはゆっくりと、よく聞こえるよう一言一言を区切りながらたずねた。


「あいつは友達を作らないんだ。作れないし作らない。どうしてだと思う?」

「どうして、って……」


 不意にたずねられて口ごもる。

 誰とも話さない黒崎くん。
 いつもうつむいている黒崎くん。

 それは、お兄さんたちにべったりな同級生たちが嫌いだからなんだと想像していたけど……本当に、それだけなんだろうか。


「あの、それって」

「ごめん、正解はないんだ。というか俺にもわからない」


 肩をすくめて、両手をひらひらと振る要さん。

 長い足を組みかえると、ジュースにもアルコールにも見える飲み物を一口飲んで。 


「これからのことは、話半分に聞いてほしいんだけど」


 と、前置きしてからしゃべり始めた。
 
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