そして消えゆく君の声
「秀二はね、閉じているんだ」

「閉じてる？」

「そう、無口だし、消極的だし、そもそも人との関わりを拒んでいる」


　そう言いながら、ひらいた両手を照明にかざす。


「決して自分を開かなくて、何かに怯えている。ずっとそうだった」

「それは……」

「もちろん、日原さんが知っている『家の事情』も理由のひとつだろうね。時代錯誤な教育。兄からの日常的な暴力。自己肯定感の欠如。人に心を開くなんて無理な話だ」


　でも、と開いた指を組み直す。


「原因はそれだけじゃない。もっと根深いところで、あいつは自分自身を否定している。殻にこもって、外を見ないようにしている」

「……｣　


　要さんの言葉を理解するのは難しかった。

　けれど、黒崎くんが何か話せない事情を抱えていて、それによって人との関わりを拒んでいることだけはわかった。
　
< 105 / 401 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop