そして消えゆく君の声
「……征一のこと、ね」


 要さんはほんの少し目を閉じて、今日初めて見る表情を浮かべた。遠くで死んだ、悪い知り合いのことを思い出すような顔。


「日原さんは、征一とサシで話したことはないんだよね?」

「……はい」

「じゃあ、わからないかもしれないけど」


 細面がうつむいて、長めの前髪が表情をかくしてしまう。私から見えるのは、すこし色の悪い唇だけ。


「ぶっ壊れてるよ、あいつは。可哀想なくらい」

「……可哀想?」
  

 要さんが何を言っているのかわからない。


「……いや、可哀想だって思いたいだけか。あいつには、わからないんだし、何も」


 独り言めいてくる言葉。照明のせいかどこか黄色っぽく見える唇が、ゆがんだ三日月を作った。


「ごめん、いい言葉が思いつかないわ」


 作られた笑顔を侵食する影。


「公正に見られないっていうかさ。ほら、俺は緑の目の怪物を飼っているから」


 きれいに並んだ歯が、きゅ、と噛みしめられる。



「食われるくらい、デカい怪物を」
 
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