そして消えゆく君の声
 緑の目の怪物。


 その、まるで意味のわからない言葉の正体を知ったのは、冗談めかした口調でデートの続きを持ちかける要さんと別れて、逃げるように自分の部屋に戻ってからだった。


『green-eyed monster』


 辞書アプリの、注意しないと読み飛ばしてしまうような短い説明文。そこに書かれた言葉は、


『嫉妬』


「…………嫉妬?」


 私は目を丸くして、整った字で表された二文字の言葉と飄々と笑う要さんを重ねようとしたけれど、上手くいかなかった。


『ぶっ壊れてるよ、あいつは。可哀想なくらい』

『……いや、可哀想だって思いたいだけか。あいつには、わからないんだし、何も』


 要さんの口で語られた、征一さん像。

 完全無欠の王子様。平気で人に手を上げられる人。

 そして、あれほど必死に幸記くんを守っているのに、いくら自分が傷付けられても決して抵抗しない黒崎くん。



 二人が抱えていた、ひどく残酷な秘密を私が知ったのはもう少し後のことだった。
 
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