そして消えゆく君の声

挿話 ある幸せな夢

 要さんと話をした晩、私は不思議な夢を見た。


 とても鮮明だったのに、目が覚めた瞬間ぽろぽろと崩れるように消えていった夢。

 とても幸せそうだったのに、胸に深い痛みを残していった夢。


 今はもう、おぼろげな輪郭しか覚えていない夢。

 その夢には、二人の男の子が出てきた。




「……それでね、動力飛行機を発明したライト兄弟は、ずっと二人で研究をしていたんだって」


 おもちゃの飛行機が宙を切る。

 小さな手に握られた赤い機体が、陽の光を浴びてぴかぴかに光っている。


 頭上には風に煽られて揺れる木々と、抜けるような青空。太陽は白く輝いて、足元の池に絶えずきらめきを反射している。


 向日葵。

 蝉の声。

 ほんのり熱を帯びた空気。
 平凡で、けれど幸せな夏の一日。


「大人になってもずっと一緒だったって」


 いいなあとつぶやいたのは、大きな帽子をかぶった男の子。爪先立ちで、腕をめいっぱい空に伸ばして、手の中の飛行機を眩しそうに見つめている。


「俺も飛行機に乗れたらいいのに。これが本物なら、どこへでも行けるのに」


 ね、と横を向いてとなりに立つ男の子を見る。

 地面に並ぶ二つの影。
 並んで立つ二人の子ども。 


 自然に肩を寄せ合った二人は、きっと兄弟だ。
 
< 111 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop