そして消えゆく君の声
 待ち合わせ場所の桃山駅は、夏休みらしくたくさんの人でにぎわっていた。

 手をつないだ親子連れ。野球のユニフォームを着た男の子たち。制服姿の女の子に、外回り中のサラリーマン。


 改札口横のバラエティショップもお客さんでいっぱいで、そのすみっこに立ちながら、私は黒崎くんを待つことにした。


(……やっぱり、スニーカーのほうが良かったかなあ)


 カツン、とかかとを鳴らしてこっそりため息。

 オープントゥのサンダルはほとんどヒールのないものだったけど、それでもなかなか足に馴染まない。


(けっこう歩くらしいのに、変に気合入れたりするんじゃなかった)


 けれど今さら履きかえに帰るわけにもいかない。時計の示す時刻は約束の時間まであと少し。

 連絡するにしても靴が合わないから一度もどりますなんて恥ずかしくて書けないし。


 靴ずれだけは起きませんように。


 心の中で祈りながら、夏らしくディスプレイされたガラスやビーズのアクセサリーと、透明の柵ごしに見えるエスカレーターを交互に見ること数分。


「あ……」


 やがて、視界の端に何か話しながらこちらへ向かってくる二つの人影が見えた瞬間。 


 私は靴のことも忘れてかけ出していた。


「黒崎くんっ」
 
< 114 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop