そして消えゆく君の声
 しきりに幸記くんのほうを見ながら歩く黒崎くんと、平気だよと言わんばかりに笑って足を進める幸記くん。

 あの雨の日と同じ姿。

 でも、二人のまとう空気はやわらかくて、優しくて。胸のなかにじんわりと幸せがわいてくる。


「悪い、待たせた」


 ちょっと申し訳なさそうな黒崎くんの言葉に、思いきり首を振る。


「ううんっ、今来たとこだから大丈夫」

「桂さん、久しぶり」

「久しぶり。幸記くん、ちょっと背伸びた?」

「そうかな?良かった、俺身長低いから」


 深めにかぶった帽子のつばを引っぱりながら、照れくさそうに笑う幸記くん。

 電話で言葉をかわしたり、黒崎くんに様子を聞いたりはしていたけど実際に会うのは初めて会った時以来。


「桂さんも、少し雰囲気変わったよね」

「私が?どのへん?」

「うまく言えないけど、髪長くなったし……女の子っぽくなった、って言うか。秀二もそう思わない?」

「さあ」


 私なんかよりよっぽど可愛い顔をほんのり染めてしゃべる幸記くんとは反対に、黒崎くんは淡淡とした表情で携帯の画面と頭上の発着時刻を見比べている。
 

 ……やっぱり、黒崎くんにとっては私の髪の長さなんてどうでもいいんだろうなあ。


(無理して新しいサンダルとか履いてきて、馬鹿みたい)


 胸の奥がちくりと痛む。

 つまらないこと気にしてるって、自分でもわかっているのに。
 
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