そして消えゆく君の声
 私の気持ちなんて知るよしもない黒崎くんが、小さく頷いて振り返った。


「12分の電車に乗るから」

「うん。まず関川に出るんだっけ」


 要さんの一件以来避けていた場所だけどもちろんそんなことは言えない。


「そう。で、地下鉄に乗りかえた後バス」

「結構かかるよね」

「山の方だからな。多少遅れても2時間はかからないと思うけど」

「あ、悪い意味で言ったんじゃないよ。遠出するのって楽しいし」


 あわてて手を振ると、黒崎くんは「そう」と興味なさそうに呟いて。それで話は終わりかと思ったのだけど視線はその場に留まったままで。


「?」


 私の顔……より、少し低い位置に注がれる目。

 ゴミでもついてるのかと肩のあたりを触ってみても何もなくて、念のため数回首を振ったところで弾かれたように視線が離れた。


「な、なに?」


 わけがわからなくてそう尋ねても、黒崎くんは何事もなかったようにそっぽを向くだけ。


「なにも」

「でも、さっき私のこと」

「なにもって言ってんだろ」


 早口に会話を打ち切ると、今度こそ改札口の方へ行ってしまった。


(……なんだったんだろう…)
 
< 116 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop