そして消えゆく君の声
 熟れて落ちる暮れの光に追われながら、私たちは山へ続く細い道を歩いた。

 青田にはさまれた土手にはいろいろな植物が生えていて、私が脇見をするたびにとなりの幸記くんが名前を教えてくれた。


 凌霄花。
 鷺草。
 岩菊。
 夾竹桃。


 図鑑みたいにすらすら出てくる言葉に驚くと、幸記くんは「花が好きだから」とはにかんだ。

 聞けば、幸記くんの趣味は植物を育てることで、家にもたくさん鉢植えがあるらしい。本人は「地味な趣味だよね」と苦笑いしていたけど、幸記くんの持つ優しい雰囲気によく似合っていると思った。


 四角に区切られた田畑が途切れ、あぜ道がゆるい上り坂へと変わる。

 木々が影を落とす長い長い道をこえて、緑のトンネルみたいな山道に足を踏み入れるころには私の野草知識は倍くらいに増えていた。

 ……つまり、元は全然知らなかったっていうことなんだけど。


「だいぶ暗くなってきたね」


 見れば、滲んだ夕日は強い光で雲を照らしながら山々の向こうへと沈もうとしている。
 
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