そして消えゆく君の声
「もう7時半だからな。あと20分もしたら真っ暗だ」

「ホタルって何時くらいになったら光るの?」

「大体8時から9時がピークって、本に書いてあった」

「じゃあ、あとちょっとだね。どんな風に光るのか楽しみ」


 街灯のほとんどない足元はもうずいぶん輪郭がぼやけていて、頭上の空には星がちらつき始めている。


 暮れが夜へと変わる風景。

 思えば、こんな遅い時間に外にいるのなんて文化祭後の打ち上げ以来だ。しかも男の子と一緒だなんて、半年前には想像もしていなかった。


「桂さん」


 一歩後ろを歩く幸記くんが、小声で私を呼びながら袖を引いた。視界が不安なのかなと振り返ると、ふいに目に飛び込んできた、鮮やかなオレンジ色。


「これ、あげる」

「え?」


 とつぜんのことに目を丸くしながら目の焦点を合わせると、白い指が持っていたのはさっき土手に咲いていた花だった。


 確か、忘れ草…だったはず。


 濃い緑のなか、あざやかに咲き誇って映えていた八重の花びら。一日限りの花には悲しみを忘れさせてくれるという言い伝えがあるのだと言う。
 
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