そして消えゆく君の声
夜半の空気は黒い猫みたいにしなやかで、痛みさえなければどこまでだって歩けそうだった。
足元の草を鳴らしながら足を進めること数分。細い木々の間をくぐった瞬間、ふいに視界が開けて。
水の音が大きくなったと感じるより先に、月光に照らされる水流が目の前に広がった。
「川だ……」
うっすらと雲のカバーをかぶった満月が、生い茂った草とゆるやかに流れる川をぼんやり浮かび上がらせている。
吸い込まれそうな、深く澄んだ闇。
「日原、こっち」
いつの間にか近くに立っていた黒崎くんに導かれて、私は流れからほど近い場所の岩に座った。
ホタルはまだ光らない。
見えるのは雲の間からまたたく星と縁のかすんだ月、草の影だけ。
「……静かだね」
「ああ」
「なんだか、別の世界にきたみたい」
「そうだな」
真っ黒な流れを見ていると、本当に遠い遠い場所に来たような気分になる。
隣に座る黒崎くんと幸記くんもすっぽりと夜のベールをかぶっていて、あの痛々しい傷も決して消えない痣も、すべてまっくら闇に塗りつぶされていて。
なぜだろう。
どこか泣きたいような気分に襲われた。
足元の草を鳴らしながら足を進めること数分。細い木々の間をくぐった瞬間、ふいに視界が開けて。
水の音が大きくなったと感じるより先に、月光に照らされる水流が目の前に広がった。
「川だ……」
うっすらと雲のカバーをかぶった満月が、生い茂った草とゆるやかに流れる川をぼんやり浮かび上がらせている。
吸い込まれそうな、深く澄んだ闇。
「日原、こっち」
いつの間にか近くに立っていた黒崎くんに導かれて、私は流れからほど近い場所の岩に座った。
ホタルはまだ光らない。
見えるのは雲の間からまたたく星と縁のかすんだ月、草の影だけ。
「……静かだね」
「ああ」
「なんだか、別の世界にきたみたい」
「そうだな」
真っ黒な流れを見ていると、本当に遠い遠い場所に来たような気分になる。
隣に座る黒崎くんと幸記くんもすっぽりと夜のベールをかぶっていて、あの痛々しい傷も決して消えない痣も、すべてまっくら闇に塗りつぶされていて。
なぜだろう。
どこか泣きたいような気分に襲われた。