そして消えゆく君の声
「あ、あの……黒崎くん?」


 無理やり連れ込まれた砂利道は鬱蒼とした木々に包まれていたけれど、思ったほど真っ暗ではなかった。

 ポツポツと古びた街灯が並んでいたのも一つの理由。だけど、それだけじゃない。


「一つ、聞きたいんだけど」

「何」


 明かりの元は、道の奥にたつ建物の、場違いなネオンだった。


 すぐ近くにのどかな田んぼ道が広がっているとは思えない毒々しい色彩は、経年のせいかところどころ電気が切れている。

 私が生まれる前から存在してそうな色褪せた看板と、シャッターの閉まった車庫。生い茂る背の高い草むらの中に、錆びついた自転車が倒れている。


「ここって、その」


 短いようにも、とてつもなく長いようにも感じられた道のり。

 一度も目を合わせることなく歩き続けて、ようやく立ち止まった黒崎くんに、私は思いっきり上ずった声で話しかけた。


 休憩3000円
 宿泊5500円


 と、書かれた看板の前で。
 
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