そして消えゆく君の声
 山道には似合わないお城みたいな建物。なんとなく下世話な印象を受ける照明と、やたら広い駐車場。


(これ、これって、ラ……)


 心の中でもそれ以上は言えず、真っ赤になって下を向く。


 とんでもない場所にきてしまったと冷や汗をかく私と反対に黒崎くんは冷静そのもので、右端の電飾が壊れた看板をちらりと一瞥すると、


「この辺りのタクシー会社はもう業務を終えているし、日原の足も限界。それなら、一晩泊まって明日のバスで帰ったほうがいいだろ」


 事も無げに言いながら抱えていた私を下ろした。


(泊まって、って……)


 あまりにも平然とした態度に胸がざわつく。

 いくら不可抗力とはいえ、三人とはいえ、こんな時間にこんなところに来て。黒崎くんはなんとも思わないんだろうか。

 
「ほ、本当に入るの?」

「他にいい案があるなら聞くけど」

「…………ないけど……」


 ない。あるわけがない。そもそも、非は全面的にこちらにあるし。

 でも、でもっ私たちはまだ高校生で、幸記くんなんてもっと年下で。泊まるだけとは言えちょっと抵抗が……と思うのに、黒崎くんはさっさと扉を開けて中に入ってしまう。


「ま、待ってってばっ! 一人にしないで!」


 もつれる足取りで閉まりかけたドアに滑り込む私。中に入るのも嫌だけど、外に置いていかれるのも困る。

 人がいないのを確認しつつ重たい扉を閉めて、ホッと息をついた……瞬間。


 目の前に広がった光景は、外見同様にいかがわしさ全開だった。
 
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