そして消えゆく君の声
 頭上で絡み合っている、ピンクと紫の派手な照明。

 フロントは無人なことさえ除けば普通だったけど、奥へと続く通路は異常に暗くて狭くて、見ているだけで胃が痛くなりそうだった。


(ああ、お父さんお母さんごめんなさい……!!)


 何がごめんなさいなのか自分でもよくわからない。極度の不安と緊張で、心に嵐が吹き荒れている。


 非常用のブザーがポツンと置かれたフロントの隣には、部屋の写真がならんだ四角いパネル。

 前でボタンの操作をしている黒崎くんの不機嫌顔よりも、隣の幸記くんが不思議そうに目をぱちぱちさせていることの方がいたたまれなかった。


(自分で、手続きするんだ)
 

 パネルのうちいくつかはライトが消えていて、代わりに「使用中」の文字が点灯している。

 どうやら、この中から泊まる部屋を選んで鍵を受け取るらしい。


「えっと……黒崎、くん」

「…………」
 

 おずおず声をかけると、黄色っぽい明かりに照らされた横顔が無言のまま振りかえった。

 きつく寄せられた眉と引きつっているようにも見える口元。けれどそれは、軽い金属音が鳴ると同時に伏せられて。


「泊まるだけなんだから、一々騒ぐなよ」


 軽くしゃがみ込んだ視線の先を見れば、ちいさな取り出し口からプラスチックの板につながった鍵が顔を出していた。

 あ、やっぱりここから鍵が出てくるんだ。

 そうだよね、こういうところで人と顔を合わせるのはちょっと、ずいぶん、嫌だよね。
 
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