そして消えゆく君の声
「ひ、一つ聞いてもいい?」

「その言葉、さっきも聞いた」


 扉をくぐってから、硬化するばかりの黒崎くんの態度。

 鍵を取るなり奥へ進もうとする歩調はやたら急ぎ足で、痛む足じゃ追いつけないくらい。

 速い。

 足がっていう意味じゃなくて、ためらいがないというか、一つ一つの動作がやたらスムーズというか。


 ……なんだか、変な想像をしてしまう。


「さっきのパネルだけど、よく、使い方わかったね」

「下に説明が書いてあった」

「そうだっけ?」

「日原が動揺して気付かなかっただけ」


 そりゃ動揺するよ!! とは言えなくて「あ」とか「うん」とか不明瞭な言葉をかえす。それから。


「…………あの、黒崎くんって」


 息を吸って、熱くなりそうな頬を押さえて。

 ここに来た時からずっと胸のなかにわだかまっていた疑問を、私は消え入りそうな声で口にした。


「こういうとこ、きたこと……」


 その言葉に、ピタリと足が止まった。

 この状況で、この質問。
 さすがに不躾だったかもと後悔したけれど、一度出した言葉は引っ込められない。

 すごく気になったし、心細さに似た不安もあった。さっきから背を向けたままの後ろ姿。口調はずっと不機嫌そうで、目も合わせてくれなくて。

 どうすればわからなくてひどく息が苦しかったから、つい疑問を吐き出したのだけど。


「…………と……」


 黒崎くんは、聞き取れないほど小さな声で何か呟いて。

 え?

 と顔を近づけようとした、瞬間。



「……あると、思うかっ!!」
 
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