そして消えゆく君の声
 ……これ以上の抵抗は無駄だし、多分、余計に恥ずかしい。


 観念して広いシーツのすみっこに座ると、黒崎くんが私の前にひざまずくように毛足の長い絨毯に座りこんだ。

 かかとを軽く持ち上げられて、どきりとする。

 ふくらはぎで結んだストラップがシュ、と軽い音を立てて。おそるおそる見れば、足首と側面の皮は予想以上に思いっきり剥けていた。


「うわ……」


 靴底ににじむ血を見ると、さっきより痛みが増したような気になる。

 咄嗟に奥歯を噛む私に、黒崎くんも眉間のしわを深くしてため息をついた。


「歩くっつったのに、なんでこんな靴……」

「ごめん……」

「責めてるわけじゃない」

「そうそう。秀二は素直じゃないから、心配だって言えないんだよ」


 救急道具を手にした幸記くんが、何か言いたげな黒崎くんと、まごつく私を交互に見て微笑んだ。


「かわいい靴だね」


 どうしてこの子はこんな時にも優しい言葉をかけてくれるんだろう。自分のことで手一杯で当たり前なのに。


「一応消毒しとくけど、明日どっかで靴買ったほうがいいかもな」
 

 慣れた手付きで傷口を綿でおさえる黒崎くん。

 痛い!と声が出そうになったけど、この程度のこと我慢しないと。こんなの黒崎くんたちの傷に比べたら全然大したことないんだから、と小さく頷く。
 
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