そして消えゆく君の声
「別に、誰も取らないのに。おかしいよね」


 苦笑しながら手に取った指輪にはガラスの花がついていて、その大きく花びらを開いたかたちは昨日の夜、川に流れていった忘れ草に似ていた。

 幸記くんが、髪に飾ってくれた夕焼け色の花。

 手の中の指輪は無色透明だったけど、丸みを帯びたかたちも夏の光に溶けてしまいそうな儚さも昨晩の思い出をよみがえらせる。


 ぐうぜんの出会いがとても別れがたくて座ったままじっと見つめていると、足元に影がさして。


「?」


 顔を上げると、軽く身をかがめた黒崎くんがこちらを見ていて。


「ごめん、なんだか懐かしくなっちゃって」


 てっきり急かされているのかと思って立ち上がると、黒い目はするりと幸記くんのほうに動いて、そのまま迷うようにまばたきした。


「どしたの?」

「いや、なんでもない」


 そう言いかけて、口をつぐむ。続きを話すまでには、少し時間がかかった。


「買ってやるよ、それ」

「え」

「だから、指輪」


 危うく、売り物を取り落とすところだった。


「ええっ!? いいよいいよ!」


 突然の申し出に急いで首を振る。ねだるつもりなんて全くなかったのだけど、物欲しそうに見えたんだろうか。
 
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